箱入り熟女

フリーライター松本史の日常とか箱入り熟女(三毛猫・18歳)に関する雑記帳。

強いのは母なのか? 祈りなのか?

高校時代、仲が良かった後輩Sの家は、プロテスタント系の教会だった。お父さんが牧師さんだったのだ。家が教会なんて環境の知り合いはSしかいない。興味津々でSに尋ねたことがある。

キリスト教に反発したりする気持ちってないん?」

Sはこう答えた。

「うーん、生まれた時からこの環境だけん、反発するとかあんま考えたことないなあ。なんかね、当たり前とたい、キリスト教徒であることが」

なるほど、そんなものなのか、と。

「ただ、やっぱ他の家と比べて、ちょっと違うところはあるかなー。教会は献金で運営しとるけん、無駄なお金は使えんとたい。だから、うちは最低限の必要なものは買ってもらえるけど、例えば部活で使うものとかは誰かからお下がりをもらうとか、自分でバイトして買うとかしとる」

 

11月だったかもう12月に入っていたか、詳細は覚えていないが、寒い冬の雨の日、部活帰りにSと帰ろうとしたら、Sが傘を持っていないという。

「どうした? 忘れたん?」

「いや、失くした。ねえ、傘って最低限の必要なもんだよね?」

「そだな、傘は必需品だな」

「だよね。私もそう思って、お母さんに傘買ってって言ったったい。そしたら、何て言ったと思う?」

「何だろ?」

「祈れ、って」

「祈れ、、、。母ちゃん強いな。。。」

 

その日はSをバス停まで送ってから帰った。傘をささずに歩くには、結構な雨足だったから。

 

それから何度か、雨の中を小走りしているSや、誰かの傘に入れてもらっているSを見た。だから、雨が降るといつもぼんやり考えていた、Sの祈りが届きますように、って。

 

年が明けてすぐの雨の日。Sが傘をさしていた。

「おー、傘買ってもらえたんか!!」

さすがに雨に濡れて帰宅する娘を見かねたのか、と私は思った。

「買ってもらったっていうか、買った」

 

Sは5人きょうだいの4番目で、一番上にお兄さんがいた。その当時、お兄さんは東京の大学に新聞奨学生の制度を利用して通っていた。新聞奨学生なんて、すごく大変だろうと思うのだが、S曰く「そのうえ、大学でラグビー部に入っている」。なんと、強靭!! 強えよ、兄! そのお兄さんが、新聞奨学生やバイトで貯めたお金を、自分の正月の帰省費用にするより、妹や弟のお小遣いにと送ってきてくれたそうだ。なんと、優しい!! 優しいぞ、兄! そのお兄さんからもらったお小遣いで、Sは無事、傘を購入できたのだ。

 

「兄ちゃんからのお小遣いを渡す時、うちのお母さんなんて言ったと思う?」

「わからん」

「ほらね、って」

 

ほらね、、、。そうか、祈りって強いんだ。いや、やっぱ強いのはSの母なんだろうな。