箱入り熟女

フリーライター松本史の日常とか箱入り熟女(三毛猫・18歳)に関する雑記帳。

1回目の結婚は失敗する。

30歳ぐらいの頃の話。

 

会社の女性陣の間で、ある占い師にみてもらうのが流行ったことがあった。確か、うちで発行していたタウン情報誌で取材したことがブームのきっかけだった。私はその媒体に関わっていなかったので詳細は知らないが、多分、当たるというので取材に行ったのだと思う。だけど、うちの会社で流行ったのは、当たるから、というより、おもしろいから、だった。

 

例えば、後輩のAは、「運命の相手は剛毛」と言われた。ごうもう? GOMOU? 剛毛? Aの小指から伸びた赤い糸は、途中から激しく毛がまとわりついて、その奥深くにジャングルをまとったような男が待っているのかもしれない。

 

同僚のミカチンがそれに食いついた。

「おもろい、一緒に行こうよ」

そしてふたりで占いへ行った。自宅を拠点にしているとのことで、占い師の住む一軒家にお邪魔した。占いの館的家なのかと思っていたら、かなり普通の家、超、実家感。さらに占い師はこれまた普通のジャージ着たおじさん。占いに来たというより、親戚のおじさんに会いに来たような感じだった。

 

最初にミカチンがみてもらったと思う。彼女が何を言われたか、正直、覚えていない。ただ、熱心に結婚とか恋愛について聞いていた、という記憶はある。

 

そして私の番。私はその数年前に、3年ぐらい同棲していた彼氏と別れていたのだが、最後の方は別れたいのに別れてくれないというので難儀な思いをしていた。別れの直接的な原因は私が悪かったので、彼を意固地にならせたことは今更ながら申し訳なく思うけど、別れてひとりになれたことが本当にうれしくて、正直、結婚とかにあまり意味を見出せないでいた。なので、最初は仕事のことを聞いた。ちょうど会社を辞めて、東京に行こうかなと考え始めていた時期だったから。東京に行くのは止められた。行ったら後悔する。でも、どうしても行きたいならすぐにでも行ったほうがいい。経験しないと納得しない性格だから、早く行って、早く後悔して、早く熊本に戻って来た方がいい、と。なんだか釈然としない気持ちで、話を変えることにした。

「じゃあ、結婚はどうですかね?」

興味はなかったけど、他に聞くこともなかったし。

 

「結婚は、1回目は失敗するね」

あら、そうなの? 興味がないといえど、それは聞き捨てならない。失敗すると言われて、誰がうれしかろう。

「でも、2回目で幸せになる」

あら、そうなの? まあ、それならいいかな。

「結婚と言っても、占いにおける結婚は、婚姻届を出したかどうかは関係ない。同棲して結婚同然の暮らしをしたとかも入るから、今までそういう経験はないの?」

 

そこでミカチンが乗り出して来た。

「じゃあもう1回目は終わっとるんじゃ? 終わっとったらいいのに」

ミカチンは私と元カレの別れの経緯を全部知っている。私が別れた時に、我がことのように喜んでくれて、引っ越し祝いに布団乾燥機をくれた。

 

そこで占い師が言った。

「1回目の結婚相手はブサイク」

 

その途端、ミカチンは叫びだした。

「ブサイクだったたい、ブサイクだったたーい。

あんたの彼氏ブサイクだったたい」

 

元カレは身長が180センチ近くあり、体重は100キロ超えていた。二重のタレ目で笑うとくまのプーさんみたいだった。ミカチンに言ったことはないかもしれないけど、元カレはガタイが良くてかわいらしいという私の好みのど真ん中だったのだ。一目惚れだったの、そのブサイクに。

 

ミカチンはなおも続ける。うれしそうに、私の幸せを心から願って。

「よかった、もう1回目は終わっとる。ブサイクだったけん、もう大丈夫

 「う、うん……。。。。」

 

私は元カレがブサイク枠だったとは認めていない。2018年4月時点で、私はブサイクと、後輩Aは剛毛と、まだ出会えていない。そして、私は東京にいる!

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15年現役選手の布団乾燥機。ミカチンは「長靴も乾かせる」と何度も連呼しながらくれたけど、長靴を乾かしたことはない。