箱入り熟女

フリーライター松本史の日常とか箱入り熟女(三毛猫・18歳)に関する雑記帳。

役に立たない相棒が愛おしい件

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昨日の夜、今年になってから初めてちびが猫ベッドで寝ようとしていた。猫ベッドとは、寝室の押入れの下段に置いてある洗濯カゴにブランケットを敷いたもので、夏は、そこが彼女の定位置になる。どうやら、うちの中で一番ひんやりした場所のようだ。

 

冬の間、ちびは人間用のベッドにやってきて布団に潜り込み、私の腕まくらで寝る。頭の位置によっては手が痺れてかなわないので、腕まくらをするふりだけして腕を外して寝るんだが、朝起きると不思議にキッチリと腕まくらをさせられている。人間ならばウザい彼女だが、猫だから私もまんざらじゃ無い。

 

だいたいにおいて、彼女は私を信用し過ぎる。冷え込む夜に、トイレから戻ってきたちびは私の顔をなめて起こし、布団に入れろ、と要求する。寝ぼけながら布団をめくると、冷えた柔らかな体がスルリと入ってくる。肉球も冷たい。思わず私はちびの後ろ足を束ねて手で握って肉球を温める。ちびはそんな私に完全に体を預けて、すぐさま眠りに入る。

 

しかし、考えてみれば、自分の体より数十倍でかい動物に足の自由を奪われ、なぜそんなに安心できるのだ。同じ状況に自分が置かれることを想像すると、私ならば恐怖しか感じない。でも、ちびは悠然と眠っているのだ。

 

数年前から、寄る年波には勝てず、ちびはいろいろ病気を併発している。今は朝晩の投薬、週に一度の皮下点滴、そして月に一度の動物病院通いが欠かせない。そして、それは全部、ちびにとっては苦行だ。

 

たまに私が旅行や出張で留守にするときには、ペットシッターさんを頼む。今お願いしているシッターさんは、とても猫の扱いに長けた人で、今のところその人以上は見つけられないだろうと思っている。

 

そんなベテランシッターさんなのに、ちびはシッターさんの投薬を拒否することがあるらしい。どちらかといえばおとなしい、のんびりやの猫だ。なのに、シッターさんが投薬しようとすると、「シャー!!!!!!!」と威嚇するそうで。私はちびが威嚇をするところを、動物病院で月に一度爪を切ってもらうときぐらいしか見ない。それも最近になってからだ。以前は動物病院ではただただ怯えていただけだった。月に一度通うようになって数年、やっと威嚇する勇気が出たようだ。動物病院の先生からもおとなしい猫としてお墨付きをいただいていて、ちびが威嚇したって先生は意に介さない。全くもって威嚇の意味を成していない

 

私が投薬するときはどうかというと、口をこじ開けると、舌をくるりと巻いて薬を入れさせまいとする。ただ、2秒ぐらいしか舌を巻けないので、結局すぐに薬を放り込まれ、そのあとはギュっと口を閉じられて喉をさすられ、薬を飲み込まされる。その一連の流れの間、だいたいちびは機嫌よくグルグルと鳴いている。ちょっと頭が弱い、そこがたまらなくかわいい。

 

動物病院の先生に投薬で苦戦しないか?と聞かれたときにこの話をしたら「さすが、ちびちゃん」と褒められた。猫の投薬で悩む飼い主は多いらしい。ん? 多分、褒められたと思ってるんだけど、違うのか? さすがアホですなー、という意味か?

 

ちびは今年で18歳になった。私は親元を16歳で離れたので、今では親より長く一緒に暮らしている。ペットに対して、自分のことをママと表現する飼い主が多いが、私はちびのママだとは思っていない。相棒、という方が、しっくりくる。

 

この相棒、全くもって役に立たない。ドラマの『相棒』では杉下右京をそのときどきの相棒が助けてくれるが、私が大量の仕事で疲弊しているときも、クレーム処理に奔走しているときも、彼女は何もしてくれない。というより、どんなに疲れて帰ってきても、やれメシはまだか、トイレを掃除しろ、撫でろ、もう触るなほっとけ、いややっぱ撫でろ……。全ての要求を通させられる。落ち込んでいたら飼い猫が慰めてくれた、的な話がよくあるが、あれは飼い主の幸福な勘違いだと私は思っている。猫は猫なのだ。快適に暮らしたいという欲求だけを主張しながら、ヤツらは生きている。

 

昨晩、私は人間用のベッドの上で、猫ベッドに体を丸めるちびの気配を感じていた。ああ、もう夏が近づいたんだな。いや、まだ夏というには早すぎないか? 布団に潜り込むほど寒くはないが、春と秋は私の枕元で寝るじゃないか。まだ春だぜ、夏はまだまだ先じゃないか。約半年ぶりに私はベッドを占領して寝ている。ちびに気を使って寝返りできなかったり、顔に当たるヒゲがくすぐったくて変な方向に首を曲げたりする必要はない。のびのび寝ればいいじゃないか、私。

 

 

◆◆◆

 

 

 

ダメだ、眠れない。。

眠れないからトイレに行った。まだベッドに入って40分しか経っていず、全く必要もないのにトイレに行った。ベッドに戻るときに、猫ベッドに寄った。そっとちびを撫でると、びっくりしたように「ニャー」と鳴いた。もう一回撫でて、おとなしくベッドに戻る。

 

しばらくすると、ちびが起き上がる気配がした。一縷の望みにかけながら待っていると、ヒタヒタという足音がして、ベッドの上に飛び乗ってきた。そして布団に入れろという。やはり腕まくらを要求される。重い。しばらくすると、やっぱり暑かったのか布団から出て、私の枕の4分の3を占領して丸くなって眠り始めた。頭の半分以上、枕からはみ出しながら、私は柔らかなお尻に顔を埋めた。そうしたら、急に睡魔が襲ってきた。

 

微睡みながら、ぼんやり考える。

「そうか、私を寝かしつけに来てくれたんだな」

これもまた、幸福な勘違いなんだろう。

 

あといくつの冬を、私は腕まくらできるんだろう。虹の橋を渡るとか、そういうストーリーを今、私は読むことができない。読まないことにしている。そんなもの、考えたくない。

 

私の相棒は役に立たない。何の手助けもしてくれないし、手間はかけさせられるし、かつ全く稼がない上に年間の医療費は私の医療費の10倍以上だ。ただ、相棒は私を馬鹿みたいに信頼している。私が生まれてからこれまでに他人から寄せられた信頼を全て足しても、彼女から寄せられる信頼には足りないだろう。全く役に立たないけど、私にとってはとびきり愛しい相棒だ。役には立たない、でも彼女が私を心底信頼してくれることが、私をいつも柔らかな気持ちにさせてくれる。

 

そう思うと役に立っているのか? いや、やっぱり役になんか立たなくていいのだ。

相棒はそこにいる。それだけでいいんだ。

 

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